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「異人たち」 [映画]



【ストーリー】
ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは、12歳の時に交通事故で両親を亡くした40代の脚本家。それ以来、孤独な人生を歩んできた彼は、在りし日の両親の思い出に基づく脚本に取り組んでいる。そして幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で住んでいた。その後、アダムは足繁く実家に通って心満たされるひとときに浸る一方、同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちていく。しかし、その夢のような愛おしい日々は永遠には続かなかった……。

多分日本では評価は分かれるだろう、
それは設定の変更から予想できた。
原作は読んでいないが、
もともとの「異人たちとの夏」に存在した違和感、
不自然さのようなものは健在。
主人公がゲイであること。
それが物議を醸すだろうことはわかる。
しかしそれが「異人たちとの夏」には存在しなかった、
世代と時代を超えた親子のちょっとした断絶を招く。
母親は動揺して受け入れられず、
当時「不治の病」とされたものはどうなったのか?
そのことを心配する。
当然だ。
1980年代にAIDSは死の病だった。
それもゲイの人間たちを中心に感染するため、
宗教的、社会的、道徳的に同性愛を受け入れがたい人たちには、
格好の攻撃材料となった。
2階にあがって幼少時の部屋に入ると、
すでに彼がゲイだったことがわかる。
GIジョーの人形、FGTHのポスター、様々な小物が、
彼の内面を表している。
その部屋に父親は入ろうとしなかった。
主人公はその理由を尋ねる。
この物語は12歳前に死んだ両親と、
本当の自分をわかってもらうための、
理解し合うための対話の時間を取り戻す物語。
そこが元の作品とは決定的に違う。
そして両親と会うようになったなお、
満たされぬ孤独と寂しさを共有し埋め会う存在、
心を開く存在を見つける物語。
最後は訳もわからず涙を流していた。

孤独、
寂しさ、
満たされぬ思い、
時代は変わってもなお、
マイノリティであるという思い。
その切なさを満たせるのは、
無条件の無償の愛だけなのかも知れない。

アンドリュー・スコットという俳優、
今まで見ていたのに全く印象に残っていない。
今回「やけに瞳が大きい人だなぁ」と思って、
その瞳の様子がやけに気になった。
ポール・メスカルは安定の不安定さ。
見るものを不安にさせる不安定な脆い雰囲気。
美しく蠱惑的でありながら、
何かが一緒にいるものを不安にさせる。
ビックリしたのは、
オヤジ役がジェイミー・ベル!
あの「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル!
最初クレジットを見て、
「えーっと、知っている名前だけと誰だっけ?」
で思い出したときのショックw。
でも悪い人じゃないし、
息子のことも理解しようと努めている。

決して派手な作品ではないけれど、
これは意外な拾いものだと思う。
むしろ「異人たちとの夏」は知らなくてもいい。
これはこれで、
非常に現代的に脚色され、
1980年代のヒット曲を背景に、
当時のゲイカルチャーがどんなもので、
マジョリティが向ける視線や抱く認識がどうだったか、
それを繊細に克明に描き出している。

2024年に、
まさかフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドに泣かされるとは。

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