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「開店休業」 [本]


開店休業

開店休業

  • 作者: 吉本 隆明
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2013/04/23
  • メディア: 単行本


内容(「BOOK」データベースより)
「正月支度」から「最後の晩餐」まで、吉本隆明、最後の自筆連載、「dancyu」食エッセイを単行本化。長女・ハルノ宵子、書き下ろし圧巻の追想文、40話を収録。

「知の巨人」吉本隆明という人の、
飾らない下町のお父ちゃんとしての顔。
今までに読んできた吉本隆明の本との余りの違いに、
余りに読みやすく親しみを感じるその文章に、
ギャップの大きさを禁じ得ず、
少なからぬ戸惑いを覚える。

そこを補完するのが、
最後まで父を介護し生活を共にした、
長女ハルノ宵子の文章である。
私が知っている吉本氏の姿はもう老人の姿であり、
かなり小さく感じることが多かったのだが、
その氏が無類の揚げ物好き、肉好きであり、
カップラーメンも好んでいたとは意外な素顔だった。
そしてそんな夫を支えたのはどんな良妻だったかと思えば、
自分は食べるのも作るのも大嫌い、
結核を患った身でありながら酒もたばこも生涯やめず、
美食とか料理好きとは無縁の存在だったとは!
余りにも意外な「知の巨人」の素の姿と、
食に対するものの考え方の妙な理論に、
思わず涙しそうになりながら笑っていた。
本当に愛すべき人だったのだろうなぁと。

よしもとばななの日記形式の著作から、
垣間見ることが出来る吉本氏の生活ではあったが、
日々をともにしていたハルノ宵子の文章は、
きれい事抜きに真っ正直に家族を綴っており、
「ほんの少し哀しくなった」り、
「こんな日があと何回あるのか」と感傷に浸る次女とは、
全く違うある意味辛辣な文章が続く。
それが潔いほどに気持ち良い。
おそらくは日々をともにし看取ったからこそ、
その文章を書いたときの父の思いや体調まで推し量ることができ、
誠に不思議としか表現のしようがない夫婦の姿まで、
客観的にかつ情を込めながら表現できたのだろう。

老年を迎えて、
いろいろと不自由なことも多かった吉本氏であるが、
最後の自筆エッセイとなった本書が、
食にまつわるものであったことは興味深い。
そして食が家族と密接に関わるものであり、
自らの幼い頃の記憶、戦争中の記憶、
果ては拘留されたときの食にまで及ぶ。
食べること、料理することが好きな私ではあるが、
果たして食だけでこれほどのことが思い浮かぶだろうか?
否。
それほど深く考えて食していない私には、
これほど食にまつわる記憶やネタはない。
もっとも吉本氏の記憶も、
後付けっぽいものがあるのはご愛敬である。

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