「月夜の羊」 [電子書籍]
コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営むお草は、朝の散歩の途中、
〈たすけて〉と書かれた一枚のメモを拾う。
折しもその日の夕方、紅雲中の女子生徒が行方不明に。
その後、家出と判明するが、では助けを求めているのは、いったい誰なのか?
日常に潜む社会のひずみを炙り出しつつ、読む人の背中を押してくれる人気シリーズ第9弾。
もう第9弾なのか。
そりゃお草さんも歳を取るわけだ。
当初はもう少しミステリー仕立てだったけど、
最近はすっかりご近所の家庭問題。
今回も謎めいたメモ紙から、
女子中学生の失踪に、
紅雲中学の行き過ぎた校長の規制に、
知らないお宅で倒れていた年配の女性とかかわりあい、
そこから最後は一企業の不正にまで発展。
このシリーズを読み進めてしまうのは、
御大層な事件じゃないからかもしれない。
生きていれば誰でも遭遇するご近所案件。
なにせ小室さんのことまで気にしてああだこうだ言う国民だ、
そりゃご近所の問題は、
厄介ごとで自分に迷惑が及ぶのは嫌でも知りたいしあれこれ言いたいはず。
そんな国民性を見透かしたかのような事件と、
そこにやむなくかかわることとなりながら、
自分の正義として人間として最後までかかわるお草さん。
「わかるわかる」と思いながら、
「もうお草さんもそんなに気にしなくてもいいのに」と思い、
周りの人たちの心根の優しさにほっこりとする。
「小蔵屋」が近所にあったら、
何の用事はなくても思わず通ってしまうであろう、
そんな居心地の良さが文章からも漂っている。
ほんの少しの好奇心や、
ちょっとはしたないくらいの噂話。
そんなものに人の暮らしはあふれているし、
そんなものがあるから日々大きな事件はなくても、
ちょっとした刺激で楽しめる。
読者のそんな心根を満たしてくれる紅雲町。
ある意味「家政婦は視た」なのだ。
2022-11-26 00:33
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