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「とりあえずお湯わかせ」 [電子書籍]


とりあえずお湯わかせ

とりあえずお湯わかせ

  • 作者: 柚木 麻子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2022/10/19
  • メディア: Kindle版


このエッセイもまた、公開の日記帳だ。前向きで後ろ向きで、頑張り屋で怠け者で、かしこく浅はか、独特な人物の日々の記録だ(前書きより)――はじめての育児に奮闘し、新しい食べ物に出会い、友人を招いたり、出かけたり――。そんな日々はコロナによって一転、自粛生活に。閉じこもる中で徐々に気が付く、世の中の理不尽や分断。それぞれの立場でNOを言っていくことの大切さ、声を上げることで確実に変わっていく、世の中の空気。食と料理を通して、2018年から2022年の4年間を記録した、人気作家・柚木麻子のエッセイ集。各章終わりには書下ろしエッセイも収載。

会社での空き時間にPCで読んでいたら、
年をまたいでしまったw。 
というか、もう春だw。

柚木麻子の小説が楽しくて、
一時よく読んでいた。
食べ物にまつわる話が多くて、
「この作家はきっと食べ物が大好きなんだろう」
簡単にそう想像できるくらいだった。
だから当然エッセイにもたくさん食べ物が登場するだろうと思った。
そもそも「とりあえずお湯わかせ」という言葉自体、
料理をする者にとっては基本だし、
お湯さえわかせばお茶も飲めるし、
菜っ葉も面も茹でられるし、
カップラーメンだってインスタントラーメンだって食べられる。

読み始めてこのエッセイの掲載誌が、
料理のテキストだったことに納得。
しかし。
食べ物の話が中心かと思いきや、
育児と生活の話が中心になっている。
私生活を全然存じ上げないので、
そんなことになっているとはつゆ知らず。
そりゃ育児の最中に手の込んだ料理とかは無縁になる。
実際子供の離乳食の作り置きに追われている。
それでも手作りの離乳食をちゃんと用意するからすごいのだ。
いまは簡単に回答するだけの離乳食で、
安心安全なものも多いから手抜きはいくらでもできるのに。
そして忙しいながらも丁寧な生活をしていた(であろう)ところにやってくるコロナ禍。
これによって肺に持病を持つ筆者はほぼ家に子供と軟禁状態に。
世間の流れと同様に、
退屈させないために家でいろいろなものを手作りする。
こうして当事者の生の声を聴くと、
子供と親の軟禁状態って本当に大変なんだなと思う。
特に緊急事態宣言の時には、
仇やおろそかに外出などままならん状態で、
そりゃ乳幼児を育てていたらそのエネルギー発散のための親の努力、
涙ぐましくて尊敬してやまない。

毎日の生活を楽しくしようと奮闘していたコロナ禍以前、
そのエネルギーは違うことに費やされることとなり、
何となく文からも感じられるストレスやうっぷん。

思えば自分もそうだったなぁと思うのだ。
この3年間電車に乗るにもおどおどしていた。
満員電車に乗るのがイヤで始発電車での出勤を始めた。
帰りも一目散に帰れば何とか空間が保たれた電車で帰れる。
映画館も一時閉鎖されたときは、
なかなかに気が滅入る日が続いたが、
配信サービスやWOWOWで楽しめたし、
映画館が開いたらさっさと通うようになり、
いつもより空いている空間を楽しんだのだが、
それでも常にマスクをしている苦痛と、
何となく人と接触する距離にストレスを感じていた。

そんなわけで、
筆者が久しぶりに外に出てぼーっとした、
ものすごくホッとしたという話に共感した。
この3年見えない圧力で自分も緊張が続いていたのだ。
家に帰れば一人だから気が抜ける。
映画も買い物も一人なら目的だけですぐ帰れる。
気楽なようでそれはそれでプレッシャーだった。



最後のエッセイ、
新幹線の中で子供に2時間半しゃべり続けたお母さんに向けてのエール、
これには本当にグッと胸が熱くなった。
少子化対策と騒ぐくせに、
世間の空気は子供連れに厳しい。
母親は「ごめんなさい」を連発し、
周囲も「うるさい」「邪魔だ」という気持ちを隠さない。
こんな空気の社会で子供を産んで育てる?
それこそ少子化に逆行するような空気、
これをどうにかしないとだめじゃないのか?キシダさんよ。
思いのたけをつづった言葉に、
思わず私は快哉を叫んだ。
子供を産んだことも育てたこともないけれど。

コロナ禍があぶりだす人間の分断。
それはもしかしたら子供にも向けられているのかもしれない。
「とりあえずお湯わかせ」から始まったエッセイは、
子供を育てる母親に対するエールという形で、
ちゃんと物語として成立していると思った。
ある意味ものすごいノンフィクションだ。




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