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「においが眠るまで」 [映画]



あらすじ:
匂いに敏感な、ひのき(17)は、
亡くなった父が残した全国のミニシアターで観た映画の感想が書かれたノートを見つける。
ある映画館だけ場所がわからず、匂いのメモや、感想だけが書かれていた。
コーヒー豆の焙煎店を営んでいた父が残したコーヒー豆を配りながら、父の巡った映画館へと旅にでるひのき。
薄れていく父の匂いと、場所のわからない映画館を探しながら、ひのきは少し、大人になっていく。

ロケ地にあの映画館版の御成座と、
シネコヤが使われていると言うことで、
何よりもミニシアターファンとして観なくては!
と言うことで、
ストーリーも出演者も調べずに向かう。
最近このパターン多過ぎw。
でもそれだけシネコヤでかかる映画に信頼を置いている。

ひのきは父親を亡くして、
それを忘れたいがために片付けを進める母の違和感を覚える。
彼女はまだ忘れたくないのだ。
彼女の思い出は「におい」と強く結びついている。
だけどやがてその「におい」も薄れて、
記憶から消えてしまうのだ。

映画館にはそれぞれのにおいがある。
シネコン全盛の今、
どこのシネコンも同じじゃないか、
するのはポップコーンのにおいだよ、
そう言われてしまいそうだが、
まだ入場制限もなく、
コンクリートの床で冬は底冷えがして、
夏は涼しいと言うより寒くなりそうなくらい、
途中退場途中入場あり、
中で飯を食おうが酒を飲もうが、
自由で何の文句も言われなかった時代、
映画館の中は生活のにおいであふれていた。
おととしから去年初めにかけて、
シネコヤは改装をしたのだが、
改造前のシネコヤには懐かしい独特の香央理があった。
それはちょっとかび臭いようなちょっと甘いような、
不思議に心が落ち着く癒されるにおいだった。
改装後の今は多少薄くなったのだが、
それでもやはり独特のにおいをいつも感じている。

秋田の御成座は手書きの看板で有名。
今もまだ手書きの看板にこだわって、
その素晴らしさはSNSでいつも紹介されて、
更にはいつも可愛いウサギが紹介される。
もちろんと言ってはなんだが、
生憎私は行ったことがないので、
どんな館内なのか映像を楽しみにしていた。
期待通りだった。
残念ながらうさちゃんは登場しないが、
外からの眺めで存分に看板が映されて、
中の様子は昔懐かしい田舎の映画館。
一番後ろに手すりがある作りも、
決して人間工学に基づいていなさそうなシートも、
懐かしい限りでそれだけで心が躍る。
そこで繰り広げられるユルい地元の爺さんたちとの会話。
その会話と存在が妙にしっくりとくるひのき。
ここは映画館であり、
街の暇な爺さんたちの社交場でもある。

秋田から唐突に鵠沼海岸。
シネコヤの主人との話が始まる。
この主人はあくまでもシナリオ上の主人。
本当の店主である竹中翔子さんとは見た目と雰囲気が全然違う。
もしかしたらこの人が店主なら、
シネコヤは今のような雰囲気ではなかったかも。
映画関係の本やパンフレットであふれた1階の店内、
アンティーク家具のソファや椅子が置かれた、
2階の落ち着いた雰囲気のシアター。
今そこに座っている空間が、
目の前に映し出されている不思議。
思い出される1階の本のにおい。
夜更けにベランダでたべるシーフードヌードルの背徳感の香りまで、
何とも生々しいくらいに脳内で再生される。

そして次に行き着いた先は、
周りのあるものや特長しかわからない映画館。
でもその映画館も今はなく・・・。

父親のにおいを思い出せるうちに、
そのにおいを再現しようとするする。
そのにおいは父親の日常のにおい、
構成するのは父親が生きた世界のにおい。
夕方になると家々から流れてくる夕食の香り。
それもまた生活の世界のにおい。
ちなみに私が働く事務所は、
ベーカリーがすぐそばにあるので、
窓を開ける季節はパンを焼くにおいで満たされるのが日常。
おそらく他人からしたら、
私にも独特のにおいがあるのだろう。
昔は喫煙者だったのでそれが私のにおい。
今はもうタバコも酒も止めたけれど、
年齢なりの加齢臭とデブの汗臭いにおいだろうか?

ひのきがあの店を継ぐのかはわからない。
でもあの設備さえ残しておけば、
きっと彼女は何かにつけ豆を焙煎して、
美味しい珈琲を入れることができるだろう。
それはにおいに敏感で父親を深く愛していたひのきにとって、
当然のことに用に思える。
でもそれまであの店の香りは封印だ。
次にはひのきが新しいにおいを残すようになる。

たった91分の映画だが、
ものすごく密度が濃くて、
ものすごく満ち足りた気持ちになれる。
両方の映画館を知っている人なら、
なおさらその思いは強いだろう。
こういう形でミニシアターに人が興味を持ち、
足を向けてくれるようになったら嬉しい。

でも自分の席が取りにくくなるのはちょっと辛いw。


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