「パラダイスの夕暮れ」 [Amazon Prime Video]
「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」と共に“労働者三部作"といわれ、世界中から高い評価を受けたアキ・カウリスマキ監督初期の傑作。ゴミ収集車の運転手のニカンデルは、スーパーのレジ係のイロナに恋をする。しかしやっとのことで彼女をデートに誘うも、大失敗をしてしまう。ところが、仕事をクビになったイロナが、ニカンデルのもとに転がり込むことになり…。
アキ・カウリスマキ監督の作品を見ていると、
いつも思うことは、
「この演技で魅せる役者はすごいなぁ」ということ。
そもそも毎日の生活で、
ドラマや映画みたいなやりとりなんてしない。
「すげぇなぁ」って思うのは、
大抵現実にはあり得ないことだから。
人生の再現ドラマになるのも稀だからだし、
話題になるのも珍しいとか特別だから。
アキ・カウリスマキ監督の映画は、
そのまったく逆を行くテンション。
殆どの会話は余り感情もなくて、
どちらかと言えば棒読み。
でも原語が違うからなのだろうけど、
日本語の棒読みともまた違う。
言葉の意味を含んだ言い方は感じられる。
そして身体の演技も最小限だけど、
そんなに喜怒哀楽を身体中で表現する普通の人はいない。
だから本当に日常を切り取った様な、
そんな風情にホッとしながら観ることが出来る。
ある意味黒澤明やタランティーノみたいな監督との対極。
さすが小津安二郎に傾倒していただけある。
で、これもまた一貫してその雰囲気で、
おなじみの俳優たち。
理不尽な世の中、
労働者に厳しい世間、
何をしてもなんだかかみ合わない二人、
だけどつかず離れず。
その二人が最後に選ぶ道には度肝を抜かれるが、
これもまたフィンランドならではだし、
それを見送る友人の朴訥とした感じと、
ちょっと羨ましげに見つめる遠い瞳。
そして何事もなかったように去って行く。
大きな感動とか、
拳を振り上げるような興奮はないけれど、
確実に「うんうん」と頷いて、
同意してしまうような世界。
私は本作では、
冒頭から「独立して清掃会社を始めるから一緒にやろう」と言って、
一緒に働き始めたらすぐに休止してしまう男。
なぜか彼にものすごくかんじょういにゅうしてしまった。
希望が持てればどこでもパラダイス。
ホント、
恋愛も仕事も作られすぎた映画多すぎる。
2024-05-09 00:00
コメント(0)
「ゴジラ-1.0/C」 [Amazon Prime Video]
前から観たかったモノクロ版。
これは良かった。
最初からこっちでも良かったんじゃないか、
そう思うくらいに良かった。
何がいいって、
モノクロになると、
前景のセットと背景の海の映像が合成だとわかる。
つまりVFX部分がわかりやすい。
もちろん過去のモノクロームとは違い、
カメラの質も上がっているし、
映像としては70年前と比べものにならない。
それでもモノクロになると、
VFXの「作り物感」がクッキリとしてくる。
これが古くからの特撮ファンにはたまらない。
しかしまぁ、
卓球さんの言うことが良くわかった。
確かにこの物語の何処かに瀧さんがいないことに違和感w。
できれば佐々木蔵之介の役は瀧さんだったなぁ。
誰もが認める昭和顔、
やっぱりここにいてほしかった。
先にカラー版を観ているから、
余裕があるから思ったこと。
ゴジラに迫力を持たせたいのはわかるけれど、
重心低く首を下げたり、
人や物を加える様子はなんだかイヤだ。
着ぐるみでは絶対にできない姿勢。
より一層ティラノサウルスっぽい動きだが、
そもそもゴジラってイグアノドンからデザインされたんじゃ?
70年も経つといろいろ変わる。
技術の進歩でいろいろできる。
でもやっぱり1954年のゴジラ。
このゴジラこそがやはり一番コワイ。
私が何よりコワイのは、
この映画でも放射能は軽視されている。
ゴジラが放射能を吐く度に、
東京は、相模湾は汚染される。
みんな被曝している。
黒い雨も浴びている。
こんなので放射能の恐怖を描いているとは思わない。
何かが違う。
やっぱりここが許せない。
2024-05-05 00:00
コメント(0)
「愛しのタチアナ」 [Amazon Prime Video]
フィンランドのアキ・カウリスマキ監督が、二人の中年男と二人の外国人女性の奇妙な旅を描くロードムービー。60年代のフィンランド。コーヒー中毒の仕立て屋ヴァルトは、いい年をしてロックンローラー気取りの修理工レイノと一緒に、車であてのない旅に出る。途中立ち寄ったバーでエストニア人のクラウディアとロシア人のタチアナに出会い、ヴァルトたちは二人を港まで送ることにする。
遊びはあるのに無駄はない。
たった1時間2分の映画の中に、
母親とふたり暮らしで苛ついて息詰まった男と、
その男の車の修理をした格好をつけたい男。
この二人が不意にその車で旅立ち、
道すがら乗せたエストニアとロシアに帰る二人の女性。
4人のロードムービーは、
煮え切らない二人の男と、
余計なことは言わないが優しく包容力にあふれた女性と、
静かに静かに感情を動かしていく。
主人公が使っているミシンに、
「ハスクバーナ」と書いてあって、
「あれ?」なんで知っているんだろうと。
で、思い出した。
昔営業でバイク屋周りをしていたときに、
ハスクバーナのオートバイを見ていたからだ。
で、ちょっと調べてみたら、
BMWが買った挙げ句に、
オースゴリアの企業に売却されていた。
BMW、ハスクバーナをオーストリア企業に売却へ
ローバーの時と同じように、
自前のブランドが持たない技術とネームバリューを買って、
要らなくなったらサッサと売る。
私はBMWのこのやり方が気に入らないので、
絶対にBMWを許さない。
買えないからどうでも良いけれど、
バイエルン発動機は大キライである。
全く映画と関係ないことだが、
1995年の映画を見て、
そんなことを思い出すこと自体、
それもまた映画の楽しみだなぁと思う。
カウリスマキの作品は哀しい労働者が多いが、
この映画では決して哀しいとは思わない。
中年以降老いらくの恋、
それにかけようとする気持ちも、
家に帰って母親と日常を繰り返す気持ちも、
どちらも平穏のうちに終わっていると思う。
人生って実はこんなモノだし、
逆にエストニアに残ると決心した男もまた、
日常の中の決心でありながら、
人生を変える決心であり、
それはある意味人生の平穏を求めているのかもしれない。
たった1時間2分。
天才だなーと思う。
2024-04-28 00:00
コメント(0)
「真夜中の虹」 [Amazon Prime Video]
南を目指す男の波乱万丈な旅をアキ・カウリスマキ監督が描いた、ハードボイルド・ロマン。炭鉱の閉山で失業したカスリネン。自殺した父のキャデラックに乗り、はるか南を目指して旅に出る。ところが途中、強盗に全財産を奪われ途方に暮れることに。そんな中出会ったイルメリという女性とその息子リキと交流するうち、奇妙な愛情を抱くようになる。
一種のロードムー美^でありがながら、
なかなか移動しないw。
ちょっと動いては停滞し、
また動いては停滞し、
なぜか情を交わすようになる女性と出会い、
その息子ともにも情が移って、
だけど人生は美味く転がらなくて。
そこがカウリスマキの映画なのだけど、
それが何とも酷い話だが、
陰惨さとは無縁に、
相も変わらず延々と続きながら、
辛抱ができずにまた転がり始め、
そして最後は、
「虹の向こうに」なのだ。
人が希望を捨てなければ、
いつかは虹の向こうに行かれる。
「世の中悪いことばかりじゃないよ」
1時間ちょっとのこの映画で、
絶望とどん底を何度も観ながら、
最後には虹が見えるようなマジックアワー。
心が温かくなって微笑んで終わる。
2024-04-27 00:00
コメント(0)
「異人たちとの夏」 [Amazon Prime Video]
妻子と別れ、孤独な日々を送るシナリオライターは、故郷・浅草の街で幼い頃に死別した若い父母とそっくりな二人に出逢った。だが、美しい恋人・ケイは、二人にもう決して逢わないでくれと迫ってくる。渇ききった現代人の生活に、そっと忍び込んでくる孤独と幻想。お伽話といって笑えない不思議な時間と非現実な空間を描く。
町山さんの「異人たち」の紹介で、
俄然観る気になって、
それならこっちも先に観ておかないと、と。
公開当時から「良い映画」と話題になっていたので、
もちろん認識はしていたけれど、
そう言われると観たくなくなる天の邪鬼w。
なんかもう最初から「お涙頂戴、感動作」って言われると、
「じゃ、良いか」って思ってしまう。
いやー、みんな若いw。
そしてあの当時の風間さんの仲間たちが一杯。
昔の映画らしくオープニングで大凡のクレジットが出るので、
「本多猪四郎」「高橋幸宏」「ベンガル」「角替和枝」「笹野高史」「「石丸謙二郎」
その名前でわくわくしてしまった。
一番の存在感は本多猪四郎監督。
さすがの貫禄でございました。
で、実は山田太一原作と言うだけで、
他は全く真っ白の状態で見始めたもので、
監督が大林宣彦あることも、
脚本が市川森一であることも知らず。
参った。
クライマックスでいきなりああいう展開になるとは。
もう笑うしかなかった。
ただ両親と過ごす時間は本当に愛おしくて、
頑固な職人がよく似合う鶴太郎の演技と、
可愛くて妙に色っぽいお母ちゃんである秋吉久美子が素晴らしくて、
風間杜夫の内面が子どもに返るようで、
もはや親子として何の違和感も覚えない。
あの時間の愛おしさは胸に染みる。
だからこそ現実に戻ったときの虚しさ、
余計に愛を求める気持ちも理解できる。
でもなぁ。
あの時代だからしょうがないんだけど、
最後の最後のあの演出はなぁ。
あれが原作もそうなのだとしても、
映像化は何か他に方法がなかったかな。
でもあの時代のハリウッド映画とかも、
あんな感じの作品と、
二つの映画が合わさったようなのもあった気がする。
これが今回リメイクされた作品の予告。
なんの興味もなかったので観ていなかったけれど、
「ほう、そういう感じで設定を弄ってきたか」と思ったら、
もう観たくて仕方なくなった。
そしてポール・メスカルが出ているし、
こりゃ観ておかないと公開しそうだな、と。
後半を観ちゃうと別物かな、と思う。
まぁいろいろあったみたいだし、
「期待していない分面白いと思われる」という利重剛のコメントに、
首が落ちるほど頷きたい。
せっかく名作になりかけたのに、
ああ残念。
あのアパートの絵作りとか最高なのに。
2024-04-21 00:00
コメント(0)
「ジュリアン」 [Amazon Prime Video]
両親が離婚し母と姉と暮らすことになった11歳の少年ジュリアン。離婚調整の取り決めで共同親権となり、隔週の週末ごとに別れた父アントワーヌと過ごすことに。母ミリアムは頑なに父アントワーヌに会おうとせず、電話番号も教えない。アントワーヌは共同親権を盾にジュリアンを通じて母の連絡先を突き止めようとする。ジュリアンは母を守るために必死で父に嘘をつき続けるが、アントワーヌの不満は溜まり続け、ある日ついに爆発する。
最悪の採決をしてしまった、
「共同親権」の恐ろしさ。
冒頭共同親権を争うシーン。
日本でもフランスでも変わらない。
いや、世界中で変わらないのだろう。
収入の過多が俎上に乗る。
父親は訴える。
「息子には父親が必要だ」
けれど息子の供述が読み上げられる。
「あの男が来るとコワイ。
あの男が母親を殴る。」
しかし次のシーンに映るのは、
息子を迎えに来た父親のならすクラクション。
なぜ人間というのは、
失うとなると執着心が強まるのだろう。
自分が投げ出したオモチャを、
他の子どもが遊び始めると欲しくなる。
いらないと思っていたのに、
いざ捨てるとなると、
誰かにもらわれるとなると惜しくなる。
そこに愛情などないのに。
愛情があると錯覚しているだけなのに。
そこにあるのは愛情ではなく、
ただの執着心なのに。
ある意味、
この映画では男がバカで、
衝動的に凶行を止められなくなり、
おそらくはこの先そのことが幸いとなる。
でもそこまでの時間、
妻や子供たちは恐怖の時間を過ごす。
あの男が呼ぶ「ジュリアン」という名前、
母親が呼ぶ「ジュリアン」という名前、
その意味はおそらく全く違う意味だと思った。
あの男にとって「ジュリアン」は妻を繋ぎ止める道具、
妻の今を知るための情報員、
息子として呼んでいる様子も可愛がっている様子もない。
そう、この男はバカで良かった。
でももっと陰湿で狡猾な男もいる。
もちろん男女逆のパターンもある。
狡猾に証拠を残さないように、
相手を追い詰めていくことだってできる。
暴力を用いなくても相手にダメージを与えることはできる。
その方が悪質だしダメージも大きい。
そうして相手が弱ったところで頽れるところを待ち構える。
日本も共同親権を採択した。
これによってこの映画のように、
子どもと接見することで、
現在の住所や職場などがばれることもある。
円満に別れた二人ならともかく、
様々な事情で知られてはならない情報を抱えることが多い。
だからこそ共同親権を簡単に許すことは危険。
宗主国がそうだからと言って、
この国までもが、
なぜ100年前に帰ろうとするのか?
確実にこの国は、
明治の法律と権力を目指している。
やがて結婚した女は無能力者となるのだ。
そう思いながら毎日「虎に翼」を見て、
「はて?」と首をかしげながら、
はらわたが煮えくり返る思いを抱えている。
2024-04-20 00:00
コメント(0)
「ONCE ダブリンの街角で」 [Amazon Prime Video]
あらすじ:ONCE、たった一度の出会い。ある日、ある時、ダブリンの街角で・・・。男(グレン)と女(マルケタ)は、恋か友情か、心の通じる相手を見つけた。男は穴の空いたギターを抱え、街角に立つバスカー(ストリート・ミュージシャン)。女は楽器店でピアノを弾くのを楽しみにするチェコからの移民。そんな一見、なんの接点もない二人を、音楽が結びつける。一緒に演奏する喜びを見つけた二人のメロディは重なり、心地よいハーモニーを奏でる。そんなどこの街角でも起こりえる出会いが、静かに動き始める・・・。
最初にこの映画の題名を聴いたのは、
宮藤さんと伊勢志摩さんの「大渋滞」だったかな。
イギリス映画祭のときだったような気がする。
そもそも「ダブリン」って言った時点でアイルランドなんだけど。
期待していたのとちょっと違ったなぁ。
ホントあまーいラブストーリーなんだもの。
最後は・・・なんだけど。
歌はとても良いし、
息子のやりたいことも才能も認めて、
送り出す親父が格好いいし、
夢に向かって出発するのも良いけど、
まぁ手垢のついた話だからなぁ。
こう言う微妙な感情の物語、
これを理解できないうちは、
私はまだまだ人間としてダメなんだろうな。
2024-03-29 00:00
コメント(0)
「SISU/シス 不死身の男」 [Amazon Prime Video]
時は第二次世界大戦末期。ナチスの侵攻により焦土と化したフィンランドを旅する老兵アアタミ・コルピと愛犬ウッコは、掘り当てた金塊を運ぶ途中でナチスの戦車隊に目をつけられ、“おたずね者”として追われる。アアタミが手にしているのはツルハシ1本だけ。それでも戦場に落ちている武器と知恵をフル活用し、ナチス戦車隊に囲まれて銃弾の雨を浴びながら地雷原を駆け抜けても、荒野で縛り首にされ窮地に陥っても、上空で戦闘機にツルハシを引っ掛け宙吊りになっても…絶対に死なない!多勢の敵を相手にアアタミはいかにして戦い、そして生き抜くのか――。地上戦から水中戦、さらには空中戦まで、不屈の魂を胸に相手を容赦なく始末していくアアタミの姿は、観る者の身体中の血液が沸騰するほどの興奮を巻き起こす!
劇場公開時から評判だったので、
アマプラで無料になるのを待って。
いやー、爽快w。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でモヤっていたので、
このわかりやすさは最高。
なんでナチスが映画を喋っているのかわかんねーけどw。
そして最後だけフィンランド語なんだけどw。
(ちなみに「キートス」しかわからないw)
最近の北欧映画って、
この手のわけわかめの復讐譚とか、
殺しても死なない話が面白い。
カウリスマキ兄弟とは真逆のベクトル。
地政学的にこういう男がいても不思議じゃないし、
むしろこう言う血の気の多さがないと、
あの国では国際的に生き残れなかったんじゃないかと思う。
さすがにツルハシ一本じゃダメだろうけどw。
こう言う怪作って必要なんだよね。
何でもかんでも小難しいこと言わず、
何も考えず単純にエンタテインメントを楽しむ。
いいよー、問答無用でナチス皆殺し。
そりゃナチスにもまともな人間もいるだろうし、
それなりに情けの賭けようもあるだろうに、
そんなことは何も考えなくて良いからw。
余りに爽快でくだらなすぎて最高。
ラース・フォン・トリアーに奪われたエネルギーを補充できたw。
2024-03-19 00:00
コメント(0)
「アメリカン・フィクション」 [Amazon Prime Video]
侮辱的な表現に頼る“黒人のエンタメ”から利益を得ている世間の風潮にうんざりし、不満を覚えていた小説家が、自分で奇抜な“黒人の本”を書いたことで、自身が軽蔑している偽善の核心に迫ることになる。
アカデミー賞授賞式前には見ておこうと。
公開されていない作品や、
配信の関係で見られないものはともかくとして。
ものすごく皮肉な物語。
インテリ一家の黒人の異端児、
セロニアスは小説家であり文学者。
だけど出版からは遠ざかり、
堅物であるが故に大学の授業からは追いやられ、
医師で母親の面倒を見てくれていた妹が急死。
弟は様々な事情から整形外科医でありながら生活が乱れ、
金のく麵も認知症を疑われる母親も彼に降ってきた。
そして売れない小説ばかり、
彼の理想を追って書いていることに、
エージェントらから散々なことを言われて、
半ば自棄になって世間が自分に求めるもの、
「如何にも黒人社会のダークサイドの実録」
それを書いてエージェントに送る。
そこから彼の人生が転がり始める。
くそ真面目で堅物でプライドが高い。
正直言って隣にいたら面倒臭い。
その男が自分とは正反対の男になりきって、
物語を作ってしまったからさぁ大変。
自業自得とも言えるが、
エージェントや編集者や映画関係者に踊らされ、
振り回されてこうなったと言うこともある。
とりあえず出版と映画化と言う道は拓けたが、
彼にとってそれは不本意の連続。
世の中で話題になったのは彼自身の書きたい本ではなく、
世間が黒人に期待する物語。
やがてそれが現実のセロニアスにも影響を及ぼす。
実にシニカルなコメディ。
正直声を出して笑うタイプではない。
ただなんとなくその皮肉にニヤニヤして、
追い詰められる主人公を醒めた目で見つめる。
だからと言ってそれほどの悲劇でもないし、
そのことによって彼は少しずつわかってくる。
世間や家族と自分の関わり方や生き方が。
そしてそれは決して悪いことでは亡い。
彼の人生がこうあるべきだったように、
アカデミー賞のバランスの中でも、
こういう作品があるべきだった。
わかりやすい娯楽大作や、
わかりやすい問題作ではなく、
アメリカのダイバーシティに潜む問題や、
そこに生きるティピカルではないマイノリティ、
彼らの問題を取り上げることが大事だったのだろう。
良い映画だ。
扱うべき問題を扱い、
それが皮肉に満ちている。
決して過激ではないが、
問題という問題を投げ込んでいる。
まさしく「アメリカン・フィクション」だ。
だからその意味と存在意義がある。
受け入れられる人そうじゃない人がいるだろうが、
それはそれで良いと思う。
ところで「Amazon Prime Video」では時折あるのだが、
オリジナル作品と古い作品の字悪
文章はおかしくないのだけど、
なんとなく違和感を感じる字幕なのだ。
おそらくは機械翻訳か、
AI翻訳なのだろうが、
何処かおかしな感覚を与える。
そして題名の直訳問題。
これがちょっとばかり問題なので、
劇場公開並みの字幕監修ができれば良いのに。
2024-03-10 00:00
コメント(0)
「あいつの声」 [Amazon Prime Video]
1990年代の韓国。テレビ番組でニュースキャスターを務めるハン・ギョンベ(ソル・ギョング)のひとり息子サンウが連れ去られる誘拐事件が発生する。慌てふためく両親もとにかかってくる誘拐犯からの脅迫電話。その内容は身代金として現金1億ウォンを要求するものだった。
随分前から「見なくちゃ」と思っていたのが、
配信が4日以内に終了するとのことで、
慌てて。
登場からソル・ギョングがでかい。
調べると「力道山」の後なので、
「なんだ、役が抜けないうちの出演か」と思っていた。
後は撮影の順番もあるのだろうが、
途中で見せる身体もごつい。
なのでそう言うことかと納得していたら。
そこはロバート・デ・ニーロもビックリのカメレオン俳優。
誘拐された息子は見つからず、
犯人に翻弄されるだけされて、
身代金は奪われるは、
警察にも妻にも不信感を抱くは、
まったく救われない物語の中、
ソル・ギョングがやつれていく。
最後にキャスターとして同じテーブルに座ったとき、
いつものソル・ギョングになっていて、
すっかりシャープでスッキリとしていた。
予めやつれていく父親を演じるつもりだったのか、
もともと力道山で作った身体を絞りながら、
それを利用したのか、
それはわからないが、
とにかく見事な暴騰とラストの変化だった。
尊大なキャスターが、
正義の鉄槌を振りかざした挙げ句、
自分が犯罪者にひれ伏すようになる。
翻弄され続けて、
身代金を用意して運んでは裏切られ、
けっきょく自分の子どもの命も守れない。
で、子どもの死体が見つかったら、
奥さんを労っているのかと思えば、
「もう一人・・・」って、
男って生きものはAがダメならBって、
よくぞ考えられるなと言う話。
いや、旦那だって充分傷心なんだけどね。
まぁいろんな意味でこの夫婦、
エリートだし金持ちだし、
間違っているところも多いし、
やり過ぎなこともあるし、
嫌味なところも沢山ある。
だからと言って子どもの命を奪われるのは違うし、
何より子ども自身には罪はない。
「殺人の追憶」と言い、
未解決事件ものの韓国映画は、
マジで精神的にイヤらしく責め立ててくる。
そこが嫌いじゃないんだけど、
大抵は攻められる側にも問題があったりして、
「そういう転換も致し方なし」と思える。
でもね。
営利誘拐は非道な行為だし、
何より何の罪もない子どもを殺す誘拐殺人、
これは人としての仁義に反する。
最後まで姿を現さない犯人をカン・ドンウォンが演じているんだけど、
よくこんな役を引き受けたなぁ。
ちらっと見るだけでわかるけど。
イヤな映画。
でもずっと残る。
2024-03-02 00:00
コメント(0)